眼内レンズは、「単焦点眼内レンズ」と「多焦点眼内レンズ」の2タイプがあります。
単焦点眼内レンズは、特定の距離、1点にだけピントを合わせる仕組みのレンズとなっているため、予定した特定の距離ではクリアな視界が得られますが、ほかの距離を見る際にはメガネが必要です。
一方、多焦点眼内レンズは、複数の距離にピントが合うレンズです。遠距離・中距離・近距離のうち2つの距離にピントを合わせることが可能となるため、メガネの頻度が減り、より幅広い距離で視界が得られます。
多焦点眼内レンズ「遠くと近くが見える遠近両用レンズ」と「遠くから中間距離まで幅広く見えるレンズ」の2種類のレンズがあり、ライフスタイルに応じてレンズを選択することで、眼鏡の使用頻度を減らし、より快適な生活を送れる可能性が高まります。
多焦点眼内レンズの最大のメリットは、近くにも遠くにもピントが合うので、メガネをする手間から解放されて裸眼での快適な生活を目指すことができる点です。
年齢とともに老眼鏡や遠近両用メガネが必要になることが多いですが、多焦点眼内レンズを使用することでメガネの使用頻度を大きく減らすことができます。
単焦点眼内レンズはピントの合う1カ所については鮮明な見え方を実現することができます。しかし、多焦点眼内レンズでは、目の中に入ってきた光を複数の箇所に割り振るため、見え方の鮮明さが低下する場合があります。(コントラスト感度の低下)レンズの種類によってコントラスト感度は異なります。
夜間に強い光を見たときに、光の周辺に輪がかかって見える(ハロー)、光がにじんだりする(グレア)、光源から放射状に光の線が伸びて見える(スターバースト)などの症状が出る場合があります。これらの症状は異常光視症と呼ばれており、レンズの種類によって程度は異なります。
多焦点眼内レンズの複雑かつ繊細な構造のために、網膜疾患や緑内障がある場合には使用できない場合があります。ただし網膜疾患や緑内障があっても使用できる多焦点眼内レンズ(Vivity)があるため、そのようなレンズの使用を検討します。
国内で承認されている多焦点眼内レンズは選定療養の対象になります。選定療養の制度を利用することで、費用負担を抑えながら多焦点眼内レンズを使用することができます。
当院で取り扱っている選定療養対象の多焦点眼内レンズは下記の通りです。
回折型の3焦点眼内レンズです。特にパソコン作業が必要な60㎝から手元40㎝までがよく見えるレンズで、国内で初めて承認され3焦点眼内レンズです。遠方、中間(60㎝)、近方(40㎝)にピントが合い、幅広い距離をカバーできるため、日常生活においてほとんどメガネやコンタクトレンズが必要ない場合が多いです。また瞳孔径が大きくなるほど遠方への光配分が大きくなるように設計されており、ハロー・グレアを抑える工夫がなされています。実生活に即したバランスのいいレンズです。手元30㎝の見え方はやや劣ります。
2023年に厚生労働省から認可された「波面制御型焦点深度拡張レンズ」です。遠方から中間までの距離を切れ目なく見えること、コントラスト感度(見え方の質)において単焦点眼内レンズに遜色のない自然な見え方が可能です。またハロー・グレアがかなり抑えられたレンズデザインとなっています。近方の見え方にはあまり強くないという弱点があるので、①片眼に「パンオプティックス」もう片眼に「ビビティ」という組み合わせでカバーするミックスアンドマッチ ②片眼の「ビビティ」を遠くに合わせ、もう片眼の「ビビティ」を少し近くにずらして組み合わせるマイクロモノビジョンという方法があります。
テクニスシナジーの後継レンズにあたり、日本では2024年11月に取り扱いが可能となった新しい多焦点眼内レンズです。遠方から近方のスムーズな見え方を維持したまま、テクニスシナジー(TECNIS Synergy)の課題点であったハロー・グレアの低減を実現していますが、近方は手元40㎝からとなっているため、近方の見え方を重視する方には若干物足りなさを感じるかもしれません。
2焦点回折型と焦点深度拡張型(EDOF)を組み合わせた連続焦点型の眼内レンズです焦点距離による見え方の差を抑え、遠方から近方まで連続して自然な見え方が可能で、幅広い範囲をカバーできるのが特徴です。デメリットとしては、ハロー・グレアが他のレンズよりも強いことです。
2025年6月販売終了の予定で、このレンズの後継としてテクニスオデッセイがあります。
独自のエシェット回折を持っており、従来では2峰性(遠方・近方)でしたが、単焦点眼内レンズと同じ単峰性で、ピントの合う範囲を広げるように設計されたレンズです。そのため単焦点眼内レンズのようにはっきりとした視界・コントラスト感度を期待できるレンズとされています。手元は50㎝までなので、読書の際は眼鏡が必要です。2025年6月販売終了の予定です。
イスラエルのHanita Lenses社が開発した5焦点の回折型多焦点眼内レンズで、2019年にヨーロッパの安全基準をクリアして「CEマーク」を取得し、日本では2020年に「自由診療」の枠で取り扱いが可能となった新しい眼内レンズです。
3焦点眼内レンズが得意とする遠・中・近のピントに加えて、「遠方から中間」「中間から近方」の距離にも対応しており、より自然な見え方が期待できます。
エボルブ (EVOLVE)は、イタリアのSoleko社が開発した屈折型の焦点深度拡張型レンズです。最大の特徴は、レンズの度数の幅が広く強度近視の方にも対応しているという点です。
現在、国内で承認されている多焦点眼内レンズでは、近視が非常に強い方に対しては規格外の度数となり対応するレンズがありませんでした。しかしエボルブは、近視が非常に強い方にも対応する度数のレンズが存在します。
多焦点眼内レンズを用いた白内障手術では、使用する眼内レンズの種類により費用が異なります。
国内で承認されている多焦点眼内レンズは、選定療養の対象となり、【通常の保険診療での白内障手術費用】+【使用する多焦点眼内レンズの費用】となります。
片眼(乱視なし) | 290,000円(税込) |
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片眼(乱視あり) | 320,000円(税込) |
乱視の有無に関しては、術前の検査データを参考に術後の裸眼視力がより出やすくなるように提案させていただきます。
国内で未承認の多焦点眼内レンズは自費診療となるため、手術費用・多焦点眼内レンズ代金・手術に必要な検査・診察の費用すべてが自己負担となります。下記費用は、手術費用、レンズ費用と術後の診察・お薬代が含まれています。
片眼(乱視なし) | 550,000円(税込) |
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片眼(乱視あり) | 620,000円(税込) |
乱視の有無に関しては、術前の検査データを参考に術後の裸眼視力がより出やすくなるように提案させていただきます。
白内障手術は、手術手技と医療機器の進歩によって安全性の高い手術として確立され、見え方を追求する時代に変化しつつあります。
そのため術後の見え方に大きく影響を与える「眼内レンズ」の選択は非常に重要なものとなります。
単焦点眼内レンズは、特定の距離に対して質の高い、クリアな視界が得られます。
一方で多焦点眼内レンズは、白内障手術後に「なるべく裸眼で過ごせるようになりたい」「メガネや老眼鏡を装用の機会を減らしたい」といった患者さまへおすすめできます。
さらに5焦点眼内レンズは、多焦点眼内レンズの「見え方の質」にこだわって開発され、多焦点眼内レンズのメリットを最大化し、特有のデメリットを少なくした素晴らしい眼内レンズです。
現在、さまざまなレンズが登場したことで多くの選択肢があります。術後の見え方・満足度は、術前の状態や期待値など様々な要因によって個人差があります。もっとも重要なことはレンズの性能を理解していただき、ご自身のライフスタイルにあったものを選んでいただくことです。